戸田てこの「て、ことだ!」 -3ページ目

都合のいい想像力だけ持って生まれたみたいな女だなあ

じぶんが思った以上にあたしは汚れていて

じぶんが思った以上に好かれてないらしい


ある日突然思い知らされる

今までの「思いあがり」

世界が180度色を変えて迫る


それでも夢をまた見てしまう

都合のいい想像力だけ持って生まれたみたいな女だなあ


お願いだ

こんな

こんなふうに

けずりとられて

ただ小さくなったあたしを

石ころよりもつまんないあたしを

だれか気づいて

だれか愛して

もう夢だったなんて二度と思いたくない



お願いだ

お願いだ


春にして君を離れ

あたしはいま一番恐ろしい「あたし」と対峙させられている


かみさまはあたしを見落としてしまったんだ



毛布

今日大発見があったんだ

あんたの前世がなんだったか、あたしわかったの

もう、それですべてがぴったりはまったの

ぜんぶがそうだったんだ!ってわかったの

今はやりのオーラ、あたしみれるのよ すごいでしょう

なんか見れそうなような気もするでしょ あたしなら? 

じっと目をみて。

あんたの前世はね

毛布。

ぜったいそう

だから柔軟剤のにおいが好きなんだよ

薬局屋行くたびにダウニーさがして嗅ぐの、あれ、へんだよ。

ほら つじつまも合う

あんたの前世はね

あたしの毛布

ちっちゃいころからのね

よだれつけまくって それがないと眠れなくて 旅行にも連れてった

ぼろぼろの毛布

となると、

もしかしたらあたしはライナスだったかもね

だからはなさないのよ

だからとびこむのよ

あんたのむねにとびこむのが、あたしほんとにすきだ

だからあんたは太ったのよ

あたしより大きくあるためにね

あたしよりふわふわであるためにね

ね。つじつまが合う。

毛布

毛布

あたしの毛布。


脅迫

神さまがもしいるとしたら

神さまはSらしい


神さまはわたしのことを嫌いらしい

それか神さまもみんなとおんなじ。

私を強いとかんちがいしているらしい


友達の言うとおり

ぜんぶが前世の宿題なら

あたしはよっぽど前世で極悪人か

よっぽど前世で恵まれた人だったらしい

そんなの知らないよ そこまで責任もてないよ


明日を信じられない人は

こんなふうに思うのか

明日が来てまた落胆するのが怖いから

明日が来るのをやめるのか


この嵐からずっとぬけだせません

もう何年も同じことで泣いていてちっとも前に進みません


これからさきもずっとそうなら

私にも考えがある。

しゅうまつ

いっそいますぐ終わらせてよ

考察

これから先


私があの人を失くすことはないだろう


たとえ私が他の誰かに出会っても


あの人と二度と会わなくなったとしても


私があの人を失くすことはないだろう




あの人と私の間にあるものは


そういったたぐいのものではないからだ。


あの人と私の間にあるものは


「なくならないもの」だからだ。


それは最初から「ない」ともいえるものかもしれない。


そこからは何の利益も生まれないし


何の被害も生まれない。


それ自体が何も起こさないということは


あるいはそれは「ない」ということではないか。






あの人が私の世界から消えても


私にはもうわかってしまっている


私はあの人のことをずっと好きだろう


それはもう恋ではなくて


もっと先の大きな気持ちだ


あえなければさみしいけれど


怖くはない。


あの人もまた、私がどうなろうとも


私を失くさないことを


私はわかっているから




私が私でなくならないかぎり


あるいは


私が私でなくなったとしても


あのひとの目は私をとらえ


私が

遠くから

かみさま

もしも

もしもほんとうに

あたしにもそんなちからがあるんだとしたら

ねがえばかなうんだとしたら

あのひとがしあわせになりますように

いまの運命をしあわせだと思えますように

いつかあのひとが

あのひとのことをおもう家族や友達に

ちゃんと気づきますように

いじわるく考えるのをやめてほんとうのことに気づきますように

あたしにもそんなちからがあるんだとしたら

「もう、しょうがないなあ」って言って。

背が低いこと気にしてるけど、

あたしはいつもちょっと赤くなる

だって一緒に並んで歩くと

影があなたのほうがすっと長くて

うれしいんだ

ちゃんとデートしてるみたいで


手が丸いこと気にしてるけど

あたしはいつもちょっと赤くなる

だってその丸い手に

どうしてもどうしても触りたくて

あたし酔っ払ったふりしたことあるんだよ


ねえ今日も

「もう、しょうがないなあ」って

その丸い手を開いて


あたしの手を迎えるためだけに

「ほらっ」てして。




あなたの背が私より高いこと


あなたの手が私より大きいこと


あなたが「男の子」だってこと


ほんとうに知っているのは

私だけがいい



次の一手

カードが全部ちょうどいっぺんに

裏返って

この先は

わからない


そのためのゼロなんだ


といいきかせて

雪の中をさくさくとすすむ


こいつはヘビーだぜ

こんな夢をみた

こわいゆめをみて
あさおきた
くらいみちを
ひとりで
こごえたゆびは
まっかになって
たずねてあるく
いろんないえのどあ
たたいては
よびかける
どこ?どこ?
ただゆびをこおらせて
あたしは
あかないどあをたたいてる
そういうこわいゆめをみた
あたしはどあをたたいてる
なかにそれがあることが
わかってる
こたえてくれなくても
あかりがついていなくても
ぜったいそこにあるんだって
わかってる
あたしのゆびはまっかなのに
こごえてしんまでつめたいのに
あたしはどあをあけて
はやくそれを
あっためてあげなきゃと
おもいこんでる
それはしちゅーで
そのしちゅーをなぜだかわからないけど
あたしはじぶんのてで
あたためられるとおもいこんでる
ばかだなあ
あたためてなんかやれないのに
ひっしであたためようとするあたしを
もうひとりのあたしが
ばかにしているゆめだった
ばかだなあ
あんたはつよいから
そんなことしなくてもいいんだよ
もうひとりのあたしがあたしをばかにする
それもどあをたたくあたしは
ばかにされてることもきづかないで
ただどあをたたきつづけるのだ
そのどあのなかにはいらないと
あたしはえいえんにやすまることはないから
えいえんにつよいひととして
いきてかなきゃいけないから
あたしはほんとにばかみたいに
どこ?どこ?と
まっかなゆびでどあをたたいてる


それは砂場の砂を砂浜に返すくらい意味のない作業だ

ミリオン

いがいがの坊主頭のあちこちに

ちらほらのぞく若白髪まで私は好きだった。

暗い店の中で見てると

そこだけちらちらと光って

「星みたいだなあ」なんて思っていた。


大きなひじも

そこにまあるくついた赤い虫さされのあとも


毛玉だらけのオレンジ色のだっさいセーターも

私はぜんぶに恋をしていた。


いつもジャージのえりを立ててるのを

どうしてかと思っていたら

ジェームスディーンに憧れてという

いまどきなしだろ、それ、っていうくらいの

だっさい理由だったのも

かわいくて愛おしかった。


福島弁も

寅さんのものまねも

へんなときどき高くなる声も

その言葉なら全部好きだった。


ヤフーで必ず無料心理テストがあるとしてしまうところも

「三丁目の夕陽」を見て泣いてたことも

口の中に入れた卵を頭の上から出すという手品をしてくれたことも

けんだまができなかったことも

パイナップルのいっぱいついたシャツを着ていたことも

ときどきタオルを頭に巻いていて

それがはっとするくらいかっこいいと思ったことも

カラム―チョが好きなことも

おばあちゃんの話を嬉しそうにするところも

自分の母親を名前で呼ぶところも

とほうもないくらい

私は好きだった。


そういうことはいつか

ひょいと現れて

あたしをいつも「ふふ」て気持ちにさせる。


そういうことを

あたしは否定しないで生きていくから

昔の男の話ばかりするダメ女に見えるのかもしれない。

でも

「ふふ」ってせずにはいられない

かわいいひとを見つけたことは

孫にまで自慢できるあたしの大きな出来事だ。


ああ、

とってもすきだった。今回も。とってもすきだった。