ミリオン | 戸田てこの「て、ことだ!」

ミリオン

いがいがの坊主頭のあちこちに

ちらほらのぞく若白髪まで私は好きだった。

暗い店の中で見てると

そこだけちらちらと光って

「星みたいだなあ」なんて思っていた。


大きなひじも

そこにまあるくついた赤い虫さされのあとも


毛玉だらけのオレンジ色のだっさいセーターも

私はぜんぶに恋をしていた。


いつもジャージのえりを立ててるのを

どうしてかと思っていたら

ジェームスディーンに憧れてという

いまどきなしだろ、それ、っていうくらいの

だっさい理由だったのも

かわいくて愛おしかった。


福島弁も

寅さんのものまねも

へんなときどき高くなる声も

その言葉なら全部好きだった。


ヤフーで必ず無料心理テストがあるとしてしまうところも

「三丁目の夕陽」を見て泣いてたことも

口の中に入れた卵を頭の上から出すという手品をしてくれたことも

けんだまができなかったことも

パイナップルのいっぱいついたシャツを着ていたことも

ときどきタオルを頭に巻いていて

それがはっとするくらいかっこいいと思ったことも

カラム―チョが好きなことも

おばあちゃんの話を嬉しそうにするところも

自分の母親を名前で呼ぶところも

とほうもないくらい

私は好きだった。


そういうことはいつか

ひょいと現れて

あたしをいつも「ふふ」て気持ちにさせる。


そういうことを

あたしは否定しないで生きていくから

昔の男の話ばかりするダメ女に見えるのかもしれない。

でも

「ふふ」ってせずにはいられない

かわいいひとを見つけたことは

孫にまで自慢できるあたしの大きな出来事だ。


ああ、

とってもすきだった。今回も。とってもすきだった。