戸田てこの「て、ことだ!」 -37ページ目

おねがい

あたしののど笛を潰してほしい

もう何を言っても駄目なのがわかるから
届かないのがわかっているのに言葉なんて意味がないのに
叫んでしまうから

あたしののど笛をつぶしてほしい

あなたの太い指でつぶしてほしい
それをするのはあなたがいい
あたしのためにしてほしい
あたしのために最後にしてほしい

おんなじ病気

もうだめかもしんない
と思いつめて、駄目なら駄目って言ってくれ
ていう気持ちで電話をしたら、

あの子は全然だめだと思ってなかった。

私がごほごほ咳をしたら
「俺とおんなじような咳してんなあ」と
あの子もごほごほ咳をした。

そうだ。この前会いに行ったとき
二人とも風邪を引いてて
うつしあいっこしてたもんなあ、と思い出したら
なんだか、

あたしたちは意外とまだ大丈夫なんだなあ、
と、
あたしにもわかった。

手を振ってくれた。

もう今夜の電話で本当に別れるかもしれない、
と思って、
だとしたら、せめて最後はかっこよく別れよう
と思いつめて、
学童でお皿洗いしながら、涙ぐみそうになった。

ら、
窓の外の一輪車置き場から、かれんが私に手を振ってる。
一年生の短くて丸っこい腕をのばして。
振り返すと、顔がぱぁっとなってもっともっと振り返す。
さっき一緒に遊んだとこなのに、
遭難していてやっと人を見つけたみたいに
かれんがぶんぶん手を振ってる。

それから、
教室に入ってきて、私に言った。
「てこちゃん!かれんが手振ってるのわかった?
かれん、ずっと振ってたんだよ。
それなのにてこちゃん、気づかないんだもん。
あーおもしろかった!!てこちゃん、手振ってくれたねえ」


なんだか嬉しくて、さっきよりもっと泣きそうになった。

私情を持ち込みまくって、助けてもらってばっかりで
いつもごめんよ。駄目な大人の代表だあ。

焼肉屋のお皿洗い

焼肉屋のお皿洗いの恋人の、陥没した爪に
鶏のむね肉に似た、手のひらに
私たちは全く別々だと知る

全く別々の生き物が、
相手を船にしたりベットにして

ただ絡まろうとしている
忘れられないように絡まろうとしている

ジョゼと虎と魚たち

この映画でいいと思うのは、

池脇千鶴の左右アンバランスな乳房。

初めてジョゼが脱ぐ時、
とても綺麗な胸じゃなくて、少しいびつな胸だったから
だからよけい危うくて愛しくて

恒夫が「やべー、俺なんか泣きそう」て
言った気持ちがわかる気がした。

あたしは女だけど、好きな子のいびつな部分が
いびつなだけ余計リアルに「その子」で
その子を抱くことに泣きたくなる。

運命の相手が女の子!!

また、Fに出くわしてしまった!!
すごいのだ。Fは小学校からの友人なのだけど、
あたしたちは大阪出身で、それぞれ大学進学で上京し、
全くばらばらの地域に住んでいるのに、
ばったり街で出会ったのが、これで三回目!!
この東京砂漠でよ!?
もう三回よ!?
一回目は井の頭公園で、
二回目は新宿の京王デパートで
今日は武蔵関だった!!

そんで、二人とも同じ名前なの。
てこは仮名だけど、「てこ」くらいあんまりない名前なのに!!
小六の時、同じクラスになって以来、交換日記するくらいの仲のよさ。

そして、打ち合わせもしていないのに、
卒論のテーマが二人とも「チェコアニメ」だった!!
ふつう、かぶるか?「チェコアニメ」やぞ?

で、打ち合わせもしてないのに同じバイトの職種だった。
それは「学童クラブ補助指導員」。
ふつう、かぶるか?!

もう、今日なんて、お互いがお互いってわかった瞬間、
あまりの運命に「きっもちわるぅぅぅぅ!!」て叫んでもうたもん!

で、笑いながらデニーズ入って晩御飯たべることになった。

「こんなに何回も会うってことは、神さまが二人で何かを成し遂げなさいって言うてるにちがいない」て、うちが言ったら、

「そうやそうや。それで、それがうちらはまだ何か掴めんくて、これからも偶然にばったり会い続けて、『これはどういう意味なんやろう?』て考え続けて30過ぎくらいにきっとわかるんや。」てFも言って、

「その、二人で成し遂げることってなんなんやろうなあ?」て二人で楽しみになった。

「その答えが出るのはもしかしたら死ぬ間際やったりして。」
「ちゅうか、死ぬの、同時やったりして。別々の街で。」
「うわあああ!きっもちわるうぅぅぅ!!」

「こういう運命がうちらなんかじゃなくて、
どっか素敵な男の人とやったらよかったのになあ」
「そしたら、神さまが何を意図してるか明確やもんなあ」
「うん、うん。恋するしかないもんなあ」

でも、ほんまはFと何か運命付けられてて、
でもその意図はまだわからない、今の謎な感じのほうが、
うちはおもろい運命やと思った。
きっとFもそう思ってると思う。

とにかく、愉快な再会やった!

夜のキスを待つ瞼に差す紫色の影に
この人が私のために疲れていることに気づく

ごめんね
眼をあけるのを待って それからキスをするよ

爬虫類のひみつ

「ないしょの話が聞きたい人はこの木の裏に来ることねー!」
 カオが思いっきりあたしだけに叫んだ。

 桜の木の後ろに回ると、カオがちいさく待っていた。
「なに?なに?ないしょの話教えてください」
 かがんでカオの口に耳を寄せると、カオは
「あのねえー・・・あー・・・」
 それからだいぶ考えて、あたしの耳に小さい声で言った。

「爬虫類ってうんこしないんだぞ」

あ、今考えたな、それ。

「・・。へえええ。爬虫類ってうんこしないんだあ!
ほんと?それほんと?」
「あー。正確には俺の飼ってる亀はする。あと、ほとんどの
爬虫類もうんこはする。けど、少ないの。爬虫類のあかちゃ
んとかすくないの」
「ほおお」



きっと女の子たちみたいにないしょ話してみたかったんだろうなあ。

今日は一のつく日

昨日とうとう別れ話が出てしまった。
おさまったけど、おさまる程度の別れ話って一体なに?
そんなことを「かけひき」の材料にされたことが腹立たしかった。

今日は朝、泣いたり怒ったり、
世の中に溢れてるといわれている愛というものを
全否定したくなったりで、

「あかんあかん」

と思ったので、外に出ることにした。

そうだ。図書館に。
そうだ。ついでにバルサンをたこう。

で、図書館で思い出した。
今日は一のつく日。
一のつく日は行きつけのビデオレンタル屋が旧作を
100円で貸してくれる。

そうだ。今日は晩御飯も作らないで、
お弁当かって、冬のソナタを観よう。
100円で四本借りた。
お弁当も買って家で冷蔵庫空けてみたら
ビールも見つかった。

ビールとお弁当と冬のソナタデビュー。
ぺやチェの無理のある高校姿に突っ込みながら、

次の電話ではやさしくしよう
て、また、できもしない決心をした

ばかにはちがいない。

でも
バルサン焚いたからちょっとえらい。

アンパンマンに質問

ともくんに
「アンパンマンから電話がかかってきたよ」
といって積み木の電話を渡したら、
ともくんはいかにもかったるそうに積み木を耳に当てた。
それから、初めは大きめの声で、最後のほうは小さな声でこう言った。
「お前さあー、アンパンマンさあー、
・・・なんでそんなにバイキンマンにやさしいんだ?」

こどもが、かわいくないわけないです。