戸田てこの「て、ことだ!」 -36ページ目

この朝をやり過ごせば

切り絵のような きいろの折り紙のような
ほんとうにきれいなお月さまが
明日は晴れだよと教えてくれる

  明日は晴れだよ。だから
  優しい夢を見ても目を覚ますことを恐れないで
  お布団からうまく出てらっしゃい


もう一度あの人とやり直して
全部うまくいって
中華料理屋であの人があたしに頬ずりをする、夢
を見てしまう私に
眠ることを恐れないでいいよ、と教えてくれる。

夜は平気。昼も平気。友達といれば平気。

だけど無意識の中で、あの人とうまくいく夢を
まだ見てしまう私に絶望するから 
朝が怖い。

この朝をやり過ごしさえすれば、晴れた空が約束されてる。

次の日の朝が怖いから
午前一時に古墳前の道路を月だけ見て歩いた。


明日は天気が下り坂らしい。
明日もし私が頑張れたら、かみさま少しご褒美ください。

「SEX and the CITY」

友達の提案で
「SEX and the CITY」を借りて
ピザを頼んで夜を明かす。
ビールとグリュ-バインと柿も買った。

「SEX and the CITY」は楽しい。
お手軽なセックス、半分冗談みたいな恋。
純愛なんてどこにもなくて、主人公の女たちは
失恋を自分のせいにしたりしない。
失敗してもほとんど反省しないし、泣かない。
振り返らないし、負けない。
道徳観念に縛られてもいない。

なんだ。こういう風に生きるのも可能。

あたしは影響を受けやすいんだから、
今度から影響を受けるんなら
こういう女たちから影響をうけよう。

純愛なんて知るもんか!!!!

2004-11-25


生きていかなくちゃ


生きていかなくちゃ

山登り

大学の中の急ならせん階段を上りながら
「なあ、今日知り合いに会う?」ときいた。
「いや、会わん」

「じゃあ、ぎりぎり今日は手、つないで」
「それはまずいやろ。つうか、なんのぎりぎりやねん」

「ぎりぎり、今日はぎりぎり、恋人やから」

あの人はあたしの顔を見て、それからポケットに入れてた手を出して
「ほらっ」と手の平をひろげた。
握ると汗をかいていた。いつもより、ずっと。

「俺、汗かいてる」

「かいてないよ」
私は嘘を言った。
汗をかいてても離したくなかった。

あの人と手をつないで歩くと、さっきよりずっとほっとして
おだやかな気持ちが流れた。言葉も素直に出てきた。

神戸に来るまでに考えたこと全部話した。
泣くかと思ったけど私ももう涙は出なかった。

お昼ごはんの時、「この数日なに考えてた?」と聞いたら
「何も」と答えた。
「てこの質問には答えるけど、俺からは何もない」

それが全部の答えやった。
やり直すことは無理やし、もうあの人の中で恋は終わってしまった。
私ももうそれはわかってた。

けど、少し時差があるから、ひとつひとつ質問しなくちゃいけなかった。
もうやり直せないとわかっていても、別にやり直す気がなくても、
「はじめっから付き合いなおすことはできんの?」と聞くことや
もう私に好きな気持ちがなくても「好きなの」と伝えることも、
自分の気持ちのひとつひとつに終わりをつけるために
確認しなくちゃいけなかった。

あの人は全部を聞いてくれてそして、
全部を「でもあかんねん」と答えた。

あたしは泣かずにそれをきいた。
「そうか。しょうがないんやなあ」と、うすく笑った。

好きの気持ちがなくても手が温かいのが不思議で悲しかった。

最後の日のこと

最後に会いにいこうか行かないか
すごく迷って
バスが神戸に着いた時、晴れてたら会いに行こうと思ってた。
晴れてたら山登りしようと思った。
あの人の大学は山の上にあって、
あたしはそこにずっと行ってみたかった。

朝、バスが着いたら
小春日和のすごくいいお天気だった。

会いにいこうと決めた。

混沌のすきま

いいきもち いいきもち
あの人をあいしてる
あたしをあいしてる
ともだちをあいしてる
今夜のこのきもちをあいしてる

おやすみなさい

これはどうしたら

お酒を飲むと痛みがどんどん鈍くなって何を悩んでいたのかもあやふやになっていって
ただもう眠りたくてお酒を飲んで朝起きた時、悩んでたことをあやふやに出来た自分に絶望する。生きていけることやきっとまた似たような恋をしていける希望に絶望する。

あたしは汚していく

どうして恋が終わったあの瞬間に死ねないんだろう
恋が原因で人が自然死することはどうしてないんだろう。
あのとき全部があたしの全部が停まってしまえば
こんな風にキズが思い出になっていったり、新しい誰かを
もうすでに探し始めている自分に気づいたり、結局愛してなかったのは
彼じゃなくてあたしの方だったんだって気づいたり
恋を汚さなくてすむのに。
生きながらえるから
友達に電話をかけまくって泣きまくってしゃべりまくって
ご飯が食べれなかったのに食べれるようになって
恋がどんどん枯葉や泥にまみれていく。
それは確かに誰にでもよくある話ではなかったはずなのに
そうなっていく。
きのうのことがおとついのことになって、おとついのことが
みっかまえのことになる。一ヶ月前のことになったらもうそのことについて
小説なんて練り始めてる。

そうして恋が終わった時、恋と一緒には死ねずに
あのとき、生きていかなきゃとおもった。
蒲団から出なくちゃ、ご飯を食べなくちゃ、そのために友達を呼ばなくちゃ。
生きるための手段をたくさん努力した。
どうして?

どうして汚れていくことしか出来ないで
そのどんどん厚くなっていく泥や落ち葉の蓑虫を
綺麗だと思う人がいるだろうか。あたしは思えるの?


どうしてまたこんな風にパソコンに向かってこのことについて
文字をかんがえることができるの?

あたしは、恋をどんどんどんどんどんどんどんどん、よごしていく。

胸の中の鳩

胸んなかに鳩がいてそいつを握りつぶしたい。
そいつがくるくるとのどを鳴らしてよく動いてゆれて「お前は生きてるんだお前は生きてるんだ生きてるんだ生きてるんだ」て、あたしのむねん中で暴れる。あたしにそれを気づかせる。あたしが泣いても歌っても寝ても喋ってもパソコンに向かっても信号を静かに待っても死んでしまえないことを知らせる。お前は生きてるんだって責めている。

ところが、ちょっとした真実

実は、結構、くだらねえ男だった!